About the Work

作品概要

夜の世界を巡る幻想的な旅を描いた5楽章構成の大作。

マーラーの交響曲第7番ホ短調(通称《夜の歌》)は、夜の世界を巡る幻想的な旅を描いたような5楽章構成の大作です。第3楽章のスケルツォを中心に、その両側を第2楽章と第4楽章の「ナハトムジーク(夜曲)」が挟み、さらに両端を第1楽章と第5楽章が固めるという対称形をとっています。調性的には、第1楽章から第4楽章までは短調の陰影に包まれ、フィナーレである第5楽章で初めて長調に転じて明るく締めくくられるという、「暗から明へ」の劇的転換が大きな特徴です。

交響曲第7番「夜の歌」グラフィックレコーディング

Background

作曲の背景

湖上のボートから生まれた夜の交響曲。

1904年から1905年にかけて、マーラーは夏の休暇を過ごしたオーストリア・マイアーニックの作曲小屋で本作に取り組みました。当時マーラーはウィーン宮廷歌劇場の指揮者として国際的な成功を収めつつあり、作曲家としても評価が高まり始めていた時期でした。

前作の交響曲第6番の完成直後に当たる1904年夏、マーラーは第7番の中核となる2つの楽章(「夜曲I」「夜曲II」)のスケッチに着手し、翌1905年の夏に残りの楽章を短い期間で一気に書き上げました。

マーラー自身、湖でボートを漕ぎ出した瞬間に第1楽章序奏の主題が心に浮かんだと妻アルマへの手紙に記しています。創作に行き詰まった際には湖上で舟を漕ぐことでインスピレーションを得たといい、第1楽章の冒頭を彩る特徴的なリズムはオールを漕ぐ動作から生まれたと言われます。こうした背景から、第7番はマーラーにとって夏の自然と密接に結びついた作品と言えるでしょう。

History

初演と受容史

理解されなかった交響曲から、再評価される名作へ。

交響曲第7番の初演は1908年9月19日、当時オーストリア=ハンガリー帝国領だったプラハで行われました。マーラー自身の指揮によりチェコ・フィルハーモニー管弦楽団が演奏しましたが、その斬新な内容に聴衆も演奏者も戸惑い、初演の評判は必ずしも芳しいものではありませんでした。

当初この作品は理解が難しい交響曲と見做され、第5番のような親しみやすい作品や、第6番のように劇的で緊密な作品の陰に隠れ、演奏機会も少ない状況が続きました。しかし20世紀後半、レナード・バーンスタインなどの指揮者による積極的な紹介もあって次第に再評価が進み、現在ではマーラーのユニークな創造性が発揮された魅力的な交響曲として注目を集めるようになっています。

Orchestra

編成の特色

異色の楽器が生み出す、多彩な音色。

第2楽章と第4楽章に「夜曲」と題した楽章を置くのは新機軸で、マーラーは第4楽章にマンドリンやギターといった異色の楽器を用いることで、その夜想的な雰囲気を一層際立たせています。

さらにオーケストレーションは前作第6番以上に色彩的で工夫に富み、第1楽章ではテノールホルンという普段オーケストラで目立たない金管楽器をソロに起用するなど独特の響きを追求しています。このように編成面でもユニークな工夫が凝らされており、多彩な楽器の組み合わせが生み出す音色は本作の大きな聴きどころとなっています。

  • 第1楽章:テノールホルン独奏による神秘的な序奏
  • 第2楽章:遠くで呼び交わすホルン、カウベルの響き
  • 第3楽章:低弦のピチカートとティンパニの対話、木管の甲高い悲鳴
  • 第4楽章:マンドリンとギターによる夜のセレナード
  • 第5楽章:金管群の炸裂による祝祭的なファンファーレ

Movements

楽章解説

夜の入口から夜明けへ。5つの楽章が描く壮大な音楽ドラマ。

  1. 第1楽章:Langsam – Allegro risoluto, ma non troppo

    静かな夜明け前の気配を湛えるような荘重な序奏で始まります。低弦が引きずるようなリズムを刻む中、暗い湖面に呼びかける声のようなテノールホルンの独奏が静寂を破って響きわたります。マーラーが舟を漕ぐリズムから着想を得たというこの主題は、不気味さと神秘的な魅力を併せ持ち、夜明け前のひんやりとした空気感を漂わせます。序奏に続いて音楽は速度を上げて力強く展開し、トランペットのファンファーレやトロンボーンの咆哮が加わってドラマ性を増していきます。

  2. 第2楽章:Nachtmusik I(夜曲 I)

    「夜曲(ナハトムジーク)」と題された最初の夜の音楽は、まるで夜の巡回を思わせるような行進曲風の楽想で幕を開けます。ホルンが遠くで呼び交わすように鳴り交わし、レンブラントの名画『夜警』を連想させる夜の情景が描き出されます。やがて木管楽器が朦朧とした鳥の鳴き声を模倣して闇の中へ消えていき、遠方ではかすかなカウベル(牛の鈴)の音が響くなど、田園の夜を思わせる音響効果が随所に凝らされています。

  3. 第3楽章:Scherzo – Schattenhaft(影のように)

    楽譜に「影のように(Schattenhaft)」と記されたこの楽章は、タイトル(イタリア語で「冗談」の意)とは裏腹に不気味で妖しいムードに満ちています。低音の弦がピアニッシモで不気味なピチカートを奏で、ティンパニがそっと対話を交わす奇妙な幕開けの後、突如として亡霊の舞踏のような陰鬱なワルツがうごめき始めます。木管が甲高い悲鳴を上げ、コントラバスは幽霊がさざめくような不気味な響きを醸し出し、音楽全体が夜の悪夢を思わせる雰囲気に包まれます。

  4. 第4楽章:Nachtmusik II(夜曲 II)– Andante amoroso

    2つ目の夜曲であるこの楽章は、前楽章までの怪奇な夜とは異なり、打って変わって親密でロマンティックな夜景が描かれます。「アンダンテ・アモローソ(愛情をこめてゆっくりと)」の指示通り、音楽には優美な愛情が満ち、編成も縮小されて、巨大なオーケストラの中に現れた長大な室内楽のようだとも評されます。ソロ・ヴァイオリンが静かに甘い旋律を奏で始め、やがてギターとマンドリンのか細い伴奏の上にホルンが柔らかく歌い交わします。まるで夜の静けさの中、誰かが窓辺でそっとセレナーデを奏でているかのような、夢見るように美しい音楽です。

  5. 第5楽章:Rondo-Finale

    最終楽章は夜が明け放たれたような眩いハ長調のファンファーレで幕を開けます。ティンパニの力強い連打に続いて金管群が炸裂し、夜の闇を吹き飛ばすかのごとく明朗で賑やかな音楽が展開します。形式的にはロンド風の構成で、主要主題が何度も凱旋しながら進む祭りの行進曲のように高揚感たっぷりです。マーラーはここで随所にユーモラスな音楽的遊び心も散りばめており、ワーグナーのオペラ『ニュルンベルクのマイスタージンガー』やレハールのオペレッタ『メリー・ウィドウ』を思わせる楽想がパロディ的に引用される一幕もあります。

Highlights

聴きどころ

夜から朝へ──音楽で綴られた一篇の物語。

静寂な湖上に響く孤独な角笛の呼び声、不気味な夜の行進と影の踊り、愛のセレナードの囁き、そして眩い朝日の中で高らかに歌われる凱歌──五つの楽章それぞれにちりばめられた多彩な音楽的ドラマは、聴く者の想像力を刺激し、まるで音楽で綴られた一篇の夜の物語を体験しているかのような感覚を与えてくれるはずです。

  • 第1楽章:冒頭のテノールホルン独奏──湖上のボートから着想を得た神秘的な主題
  • 第2楽章:夜の巡回を思わせる行進曲風の楽想と、遠くで呼び交わすホルン
  • 第3楽章:「影のように」と記されたスケルツォがもたらす妖しいワルツと夜の悪夢
  • 第4楽章:ギターとマンドリンが奏でる、夢見るようなセレナード
  • 第5楽章:眩い光と高揚感──闇から一気に光へと駆け上がるフィナーレ

Concert

今回の演奏

フモレスケ管弦楽団 2027年演奏会(2nd Concert)

Date

2027年1月24日(日)

Time

開演時間 未定(昼公演)

Venue

アクロス福岡シンフォニーホール

Conductor

坂入健司郎